
018『中畑のインテグラル英文読解S VOL.1』中畑 佐知子
|Posted:2013/08/02 00:00|Category : 英語本(高学参・絶版)|
本日の参考書:

関西代ゼミ京大クラスを担当していた中畑佐知子氏。約10数年前、駿台大阪校の京大クラスに通っていた友人曰く、京大受験者の必読書として『シンプルクッキング英作文』と『インテグラル英文読解S』が挙げられていたそうである。参考書収集を始めてしばらくしたころ、友人からこの2冊をいただいた。現在もAmazonやヤフオクで、安定の高値キープの2冊を、大枚はたかず手に入れることができたので友人に感謝しなければいけないと思う次第である。
今回はこの『インテグラル英文読解S』は、『潮田の英解講義』の時と同様、課題英文を全てノートに写し、受験生さながらに和訳に取り組んでみた(笑)。英文を書きながら取り組んでみると、著者の問題選びのセンスが分かってよい。Actが45あり、1つのActが2,3ページ、ゆっくり進めて10日程度で終えることができた。学生が同じようにやっても1ヶ月あれば余裕でこなせる分量である。
肝心の内容であるが、結論から先に言おう。間違いなく名著である!なぜこれほど素晴らしい参考書を絶版にしてしまったのかと嘆きたくなる。その反面、絶版になってしまった理由もいくつか推測はできる(個人的見解は後述)。
まず、本書は全157ページと分量は多くない。そして、本書全体を通じて言いたいことは
この4つの柱がブレることなくAct45まで疾走していく。①と②に関しては受験生が最も苦手とするところだろう。英文和訳問題が課される国公立大受験者は特別勉強しなければいけないと思われる。しかし、これほど市場に参考書が溢れているにもかかわらず、①と②をわかりやすく解説している参考書は残念ながら少ない。
①名詞構文だと『英語リーディング教本』などは丁寧な説明をしている。しかし、薬袋氏の構文記号に慣れていない学生には重荷だったりする。②無生物主語構文だと、多くの参考書が無生物主語を副詞的に訳すと記述しているが、学生時分に感じた「副詞的に」って何?という曖昧な解説にヤキモキさせられたのを覚えている。現役メジャーな参考書だと『英語の構文150 second edition』なんかは章立てして解説しているものの、なんとなく的を射ぬまま次の章へ進んでしまう感がある。中畑氏はその点、かなりシンプルに
①は「N→V」
②は「あの表」
と覚えることを最小限に抑え、最大の効果が得られるようにしている。
③の美訳については賛否があるだろう。山貞『新々英文解釈』よろしく美訳を示して「どうだ、すごいだろう?」と著者が優越感に浸っている独りよがりな参考書のひとつと位置づけてしまう読者もいるだろう。しかし、中畑氏は随所で「こうすると美訳になる、美訳に近づく」といったポイントを示してくれている。おおむね説明が不十分と感じるような箇所は、知っていることが前提と中畑氏が位置づけた箇所であろう。では一部抜粋しよう。
ぜひこのブログの読者(おそらく英語学習に意欲的な猛者の方々と思われるが)には挑戦していただきたい。中畑氏の解説および模範美訳は記事の最後で。
④基本的教養の習得だが、「知性」「自然」「言語」「科学」「歴史」の5分野に関するワンパラグラフの分量の読解・和訳問題を出し、結論としてテーマに関する基本的教養を示している。耳学問や言語外情報などと呼ばれ、特に京大などは暗に基本的教養があるかどうかを聞いている節がある。表面的に英文読解ができたところで、基本的教養がなければそれは英文を「読めた」ことにはならない。私が最もこの参考書の評価すべき点はこの基本的教養の習得をさらっと盛り込んでいることである。
さてではなぜこのような名著が絶版になったか。理由は大きく分けて3つではないかと推測する。まず1つ目に、著者が関西エリアを拠点に活動している(していた)ところである。『シンプルクッキング英作文』の太田氏しかり、この中畑氏しかり、関西を拠点にしており、首都圏での知名度は相当に低い。首都圏の学生に支持されない参考書はどうしても淘汰されていくの常である。2つ目に、『インテグラル英文読解S』は代ゼミTVネットの教材であったがために、スカパーによる授業受講者向けに作られたという印象が当時はとても強かった。そして3つ目に、現在これを復刊して果たしてどれほどの学生が良さに気づけるか、ということがある。昨今、基本的教養などに全く興味を示さない学生が多い。この本は、『〜英文読解』というタイトルでありながら、英語の読み方を事細かに説明する参考書ではない。昨今のとにかく英語が読めるようになる近道をただ模索している学生が、この本に正当な評価を与えるとは思えない。故に、復刊したところで需要は限られてくるのだろう。そもそも中畑氏自体がすでに代ゼミを退かれているし。。。
では最後に、先ほどの問題の解説を抜粋しておく。
【評価】★★★★★(5/5)
【対象レベル】偏差値65〜
【著者】中畑 佐知子
【定価】900円+税
【初版年月日】1998年4月1日
【出版社】代々木ライブラリー
<参考文献>

関西代ゼミ京大クラスを担当していた中畑佐知子氏。約10数年前、駿台大阪校の京大クラスに通っていた友人曰く、京大受験者の必読書として『シンプルクッキング英作文』と『インテグラル英文読解S』が挙げられていたそうである。参考書収集を始めてしばらくしたころ、友人からこの2冊をいただいた。現在もAmazonやヤフオクで、安定の高値キープの2冊を、大枚はたかず手に入れることができたので友人に感謝しなければいけないと思う次第である。
今回はこの『インテグラル英文読解S』は、『潮田の英解講義』の時と同様、課題英文を全てノートに写し、受験生さながらに和訳に取り組んでみた(笑)。英文を書きながら取り組んでみると、著者の問題選びのセンスが分かってよい。Actが45あり、1つのActが2,3ページ、ゆっくり進めて10日程度で終えることができた。学生が同じようにやっても1ヶ月あれば余裕でこなせる分量である。
肝心の内容であるが、結論から先に言おう。間違いなく名著である!なぜこれほど素晴らしい参考書を絶版にしてしまったのかと嘆きたくなる。その反面、絶版になってしまった理由もいくつか推測はできる(個人的見解は後述)。
まず、本書は全157ページと分量は多くない。そして、本書全体を通じて言いたいことは
①名詞構文をN→Vで処理
②無生物主語構文の対応(あの表)
③美訳の追及
④基本的教養の習得
この4つの柱がブレることなくAct45まで疾走していく。①と②に関しては受験生が最も苦手とするところだろう。英文和訳問題が課される国公立大受験者は特別勉強しなければいけないと思われる。しかし、これほど市場に参考書が溢れているにもかかわらず、①と②をわかりやすく解説している参考書は残念ながら少ない。
①名詞構文だと『英語リーディング教本』などは丁寧な説明をしている。しかし、薬袋氏の構文記号に慣れていない学生には重荷だったりする。②無生物主語構文だと、多くの参考書が無生物主語を副詞的に訳すと記述しているが、学生時分に感じた「副詞的に」って何?という曖昧な解説にヤキモキさせられたのを覚えている。現役メジャーな参考書だと『英語の構文150 second edition』なんかは章立てして解説しているものの、なんとなく的を射ぬまま次の章へ進んでしまう感がある。中畑氏はその点、かなりシンプルに
①は「N→V」
②は「あの表」
と覚えることを最小限に抑え、最大の効果が得られるようにしている。
③の美訳については賛否があるだろう。山貞『新々英文解釈』よろしく美訳を示して「どうだ、すごいだろう?」と著者が優越感に浸っている独りよがりな参考書のひとつと位置づけてしまう読者もいるだろう。しかし、中畑氏は随所で「こうすると美訳になる、美訳に近づく」といったポイントを示してくれている。おおむね説明が不十分と感じるような箇所は、知っていることが前提と中畑氏が位置づけた箇所であろう。では一部抜粋しよう。
◎実践問題(東北大(後期)、東京学芸大 他)
次の英文の下線部を和訳せよ。(改題)
When we talk about intelligence, we do not mean the ability to get a good score on a certain kind of test, or even the ability to do well in school; these are at best only indicators of something larger, deeper, and far more important. By intelligence we mean a style of life, a way of behaving in various situations, and particularly in new, strange and perplexing situations. The true test of intelligence is not how much we know how to do, but how we behave when we don’t know what to do.(P.66)
ぜひこのブログの読者(おそらく英語学習に意欲的な猛者の方々と思われるが)には挑戦していただきたい。中畑氏の解説および模範美訳は記事の最後で。
④基本的教養の習得だが、「知性」「自然」「言語」「科学」「歴史」の5分野に関するワンパラグラフの分量の読解・和訳問題を出し、結論としてテーマに関する基本的教養を示している。耳学問や言語外情報などと呼ばれ、特に京大などは暗に基本的教養があるかどうかを聞いている節がある。表面的に英文読解ができたところで、基本的教養がなければそれは英文を「読めた」ことにはならない。私が最もこの参考書の評価すべき点はこの基本的教養の習得をさらっと盛り込んでいることである。
さてではなぜこのような名著が絶版になったか。理由は大きく分けて3つではないかと推測する。まず1つ目に、著者が関西エリアを拠点に活動している(していた)ところである。『シンプルクッキング英作文』の太田氏しかり、この中畑氏しかり、関西を拠点にしており、首都圏での知名度は相当に低い。首都圏の学生に支持されない参考書はどうしても淘汰されていくの常である。2つ目に、『インテグラル英文読解S』は代ゼミTVネットの教材であったがために、スカパーによる授業受講者向けに作られたという印象が当時はとても強かった。そして3つ目に、現在これを復刊して果たしてどれほどの学生が良さに気づけるか、ということがある。昨今、基本的教養などに全く興味を示さない学生が多い。この本は、『〜英文読解』というタイトルでありながら、英語の読み方を事細かに説明する参考書ではない。昨今のとにかく英語が読めるようになる近道をただ模索している学生が、この本に正当な評価を与えるとは思えない。故に、復刊したところで需要は限られてくるのだろう。そもそも中畑氏自体がすでに代ゼミを退かれているし。。。
では最後に、先ほどの問題の解説を抜粋しておく。
A is not B but C (AはBではなくCである)を基本とした第2文型である。訳出の注意事項としては、主語であるtestを「テスト」とか「試験」と訳してしまうと意味不明な日本語となり、私が採点者なら0点だ。testの重要訳語で、英和辞典にも載っている「試金石」という日本語を覚えたまえ。あと、how much we know how to doのhow to do だが、そのまま「やり方」と訳しても何のやり方かが不明で変な日本語なので、「ものごとのやり方」などと補足するべきである。(中略)果たしてどれほどの(受験生に限らず)英語学習者が美訳できただろうか。もちろん、受験生が時間制限のある入試本番でこのレベルの答案を出すことかなり至難であろう。しかし、こうした理想の高い参考書が存在するべきであると私は思う。昨今の学生に媚びまくっている出版社(中経出版など)はこうした参考書を見習って欲しいものである。
1行目のa style of lifeの訳をどうするか。すぐに思い浮かぶのは「生活様式」とか「ライフスタイル」であろう。しかし文脈を考えてみたまえ。まずいだろう。「生活様式」「ライフスタイル」とは、例えば「都会のマンションに独り住む」などの、物質的ひびきを持つ日本語ではないだろうか。今回の文章は「知性」について語っているわけだし、第一、a style of lifeは、a way of behaving~と同義と見られるのだから、もっとmentalな訳語にするべきなのは明らかだ。そこでlifeとはlive(生きる)の名詞形である、ということに注目せよ。(そのために「名詞構文」をたたき込んだのだ!)lifeをN→Vすると、「生きるということ」だ。その辺から、結果的にa style of lifeを「生き方」と訳出したまえ。N→V万歳!では、いつものように、エス的美訳を提示する。我々の言う知性とは、生き方のことである。つまり、さまざまな状況における行動のし方、特に新しい、今までぶつかったことのない、困った状況における行動のし方のことなのである。知性があるかどうかを試す真の試金石は、ものごとのやり方をどれだけ知っているかということではなく、どうしたらよいかわからない時にどう行動するかということである。(P.67-68)
【評価】★★★★★(5/5)
【対象レベル】偏差値65〜
【著者】中畑 佐知子
【定価】900円+税
【初版年月日】1998年4月1日
【出版社】代々木ライブラリー
<参考文献>
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